【一条工務店i-smile】床暖房設定温度の決定方法 (2)

以下の記事で床暖房設定温度のちょうどいい値を検討しました。

dededemio.hatenablog.jp

その後1ヶ月ほど運用したのですが、外気温が下がると室温が思ったより低めになる事に気づきました。 そこで、前回考慮しなかったロスガードによる熱損失増を考慮して計算し、実績に近くなるか検証しました。

また、前回は計算しなかったリビング以外の部屋も計算してみました。

Pythonスクリプトを修正して以下に置いてあります。 PythonスクリプトWindows 11, Python 3.9.13で動作を確認しています。

github.com

Excelシートは修正していませんが、以下に記載の内容を同様に追加すれば、計算できるようになると思います。)

以下がこの記事の目次です。

前回方法によるリビング室温予測値と実績値の差異

12月初めに床暖房設定温度の決定方法を考えてから、床暖房設定をその方法に則り調整するようにしました。その後12/28ごろまで、床暖房設定温度、朝の最低気温、室温の実績を記録したので、予測値と実績を比較してみました。

以下の図が、前回記事で記載した方法で室温予測したもの(直線)と、実績(*印)を比較したものです。

見ての通り、設定温度が低く外気温が高めの場合では誤差は少ないものの、外気温が低くなり設定温度を高くした場合に乖離が大きくなります。これは、外気温の影響を考慮しきれていないことが原因と思います。

外気温に影響を受けるのは、壁からの伝熱損失以外には、換気熱損失、すきま風負荷があります。すきま風負荷は、気密性が良い一条工務店の家ではそこまで大きくないと考えます。そこで、ここでは換気熱損失を追加で計算します。

ロスガードによる換気熱損失

換気による熱損失は、換気によって室内外で入れ替わる空気の温度差と風量、全熱交換器(ロスガード)による外気・排気間の熱交換効率を使って、以下で計算できます*1

  • 熱損失[W] = 0.33×換気風量[㎥/h]×温度差[K]×熱交換効率[-]

顕熱の熱交換効率はカタログ値で0.9です。 換気風量は、シックハウス換気計算書にに室毎の風量[㎥/h]が記載されているのでこれを使えます。我が家のリビングは54.2[㎥/h]でした。

室温23℃、外気0℃の場合、370[W]の熱損失となります。結構大きいですね。

修正方法によるリビング室温予測値と実績値の差異

以下の図が、ロスガードによる換気熱損失を考慮した、予測室温と実績の比較図です。

先ほどよりは実績と予測が近くなっていることがわかるかと思います。 ただ、相変わらず隣室との空気の出入りやそれまでの蓄熱による影響は考慮していないので、多少の誤差が出てますが仕方ないかなと思います。

玄関ドア・土間の熱損失

他の部屋の床暖房設定を考えようと思ったのですが、玄関ドア・土間・浴槽が未考慮だったので、ここからの熱損失も考慮します。

玄関ドアは、熱貫流率のカタログ値を使って壁と同様に計算します。 我が家の玄関ドアはプロノーバの型番32であったため、カタログから熱貫流率1.54*2を持ってきて使います。

玄関土間は、線熱貫流率[W/mK]と外周長さ[m]を使って、以下の式で計算します。

  • 玄関土間の熱損失[W]=線熱貫流率[W/mK]×外周長さ[m]×内外温度差[K]

線熱貫流率は0.99とします*3。また、外周長さは、土間のうち外部に面する外周の長さとし、我が家の場合2.89[m]としました。

浴槽の熱損失

上棟時の写真を見返していたところ、浴槽下部には床・断熱材がないことに気づきました。うちの家族は浴槽を使う頻度が低くシャワーで済ますことが多いです。浴槽に湯が張っていないとなれば、ここからの熱貫流も考慮しないといけません。

カタログ上は、一条工務店の浴槽はi-スタンダード(i-cube, i-smile等)・スマートバス(i-smart等)いずれでも、6時間で1℃しか冷めないようです*4。ここから、熱貫流率を推定します。

「6時間で1℃」というのは、JIS高断熱浴槽基準の条件で評価された結果のようです。この条件は、周囲温度10℃、湯量は深さ70%でふたを閉めた状態で40℃からスタートし、何時間後に何度低下するか、というものになっています。

湯量はカタログ値で220L、浴槽の表面積を実測値からざっくり3[㎡]とします。6時間で1℃低下するので、1時間では0.167[K]の低下ですから、熱損失と、熱貫流率は以下のようになります。

  • 熱損失[W] = 湯温低下0.167[K/h] ÷(3600[s/h]/4.184[J/cal]) ×(220[L]×1000[g/L]) = 42.7[W]
  • 貫流率[W/㎡K] = 熱損失[W]÷表面積[㎡]÷温度差[K] = 42.7/3/(40-10) = 0.47[W/㎡K]

この熱貫流率をつかえば浴槽からの熱損失を計算できそうですが、1つ注意しなければならないことがあります。JISの条件でも周囲温度10℃となっていたように、床下温度は冬でも外気温度ほどは低下しません。実測データ*5でもそうなっているようです。

外気温によってどの程度左右されるか微妙なところですが、ここでは床下温度が外気温より高いため、外気温に対する熱貫流の0.6倍程度になる、と見込んでおきます。

例えば、室温23℃外気0℃なら、熱損失[W]=0.47[W/㎡K]×3[㎡]×(23-0)[K]×0.6=19.5[W]くらいとする、ということです。

各部屋の月別設定温度算出方法と結果

上記を考慮して計算するように、Pythonプログラムを修正しました。計算方法としては以下になります。

(1) Excelファイル(home_parameter.xlsx)のroom_paramシートに、室毎のパラメータを記載する

(2) 同じExcelファイルのheat_transfer_coefシートに、壁・窓・玄関ドアなどの熱貫流率を記載して保存する

(3) コマンドプロンプトからpython floor_heating_setpoint.pyを実行する

これで、各部屋の月別の床暖房設定温度目安が出力されます。

我が家のi-smileで11月~3月の床暖房設定目安を計算した例を以下に記載します。

11月

部屋 通常温度 セーブ温度
リビング 27 24
1F廊下トイレ 29 25
洗面室・風呂 29 26
洋室1 28 25
洋室2 25 22
書斎 24 23
寝室・2F廊下トイレ 24 22

12月

部屋 通常温度 セーブ温度
リビング 30 27
1F廊下トイレ 32 28
洗面室・風呂 33 29
洋室1 32 28
洋室2 28 25
書斎 27 24
寝室・2F廊下トイレ 26 23

1月

部屋 通常温度 セーブ温度
リビング 31 28
1F廊下トイレ 34 30
洗面室・風呂 34 30
洋室1 33 29
洋室2 29 26
書斎 29 25
寝室・2F廊下トイレ 27 24

2月

部屋 通常温度 セーブ温度
リビング 31 28
1F廊下トイレ 33 29
洗面室・風呂 33 30
洋室1 33 29
洋室2 29 26
書斎 28 25
寝室・2F廊下トイレ 27 24

3月

部屋 通常温度 セーブ温度
リビング 30 26
1F廊下トイレ 32 27
洗面室・風呂 32 28
洋室1 31 26
洋室2 28 24
書斎 27 23
寝室・2F廊下トイレ 26 22

傾向としては、以下がありそうです。

  • 玄関に続く廊下や風呂などは、床暖面積に対して、熱損失のある外壁・土間や床暖のない床の面積が大きいため、高めの設定温度にする
  • 1Fに対して2F(最上階)は天井からの熱損失があるため、高めの設定にする
    • ただし、内部熱負荷の高い部屋はそこまで高い設定にしなくともよい

とりあえず、これでまた運用して様子見してみようと思います。

【一条工務店】i-smileとi-smartの光熱費差の試算

私は一条工務店i-smileで家を建てました。当然ながら一条工務店のi-smartなどの他の商品との比較もしましたが、当時簡易に計算した結果、価格差を考えるとペイしないと思い、i-smileを選択しました。

ここではもう少しちゃんと、i-smileとi-smartの断熱性能の違いによる光熱費の差を計算してみます。

目次です。光熱費差がどのくらいかだけ見たい場合は、最後の結果をご覧ください。

i-smartではなくi-smileにした経緯

一条工務店の営業さんと話を始めた当初から、コスト面や家づくりの効率性からi-smileで建てようという方針で進めていました。しかし、i-smileの限られた間取りでどれにしようか悩む我々夫婦を見て、営業さんから間取りが変更できるi-cubeやi-smartも考えてみませんか、と見積りをいただきました。

その時の単価を見て愕然としたのですが、i-smartではi-smileと比較して㎡単価で3万円以上、延床105m2だったため建物本体でも330万円以上の開きがありました*1

ざっくりi-smartとi-smileの年間光熱費の差は1万円~大きくても2万円と見積もっていたのですが、これでは60年見てもペイしないな、と考え、i-smileの間取り選びに戻りました。もちろん、i-smartに変更して得られる間取りの自由度やスマートキッチンなども魅力的でしたが、我々夫婦にはそこまで優先する理由にはなりませんでした。

光熱費の比較の背景

ざっくりi-smartとi-smileの年間光熱費の差は1万円~大きくても2万円

と書きましたが、これは複数の一条工務店施主のブログ記事などを見てざっくりこのくらいだろう、と考えた感覚値でした。

じゃあ実際どのくらいなのか試算したことはなく、電気料金は年々上昇傾向にあり意外とペイするのかも?と思ったので、ちゃんと試算してみることにしました。

光熱費差の計算方法

以下の方法で計算します。

  • i-smile, i-smartそれぞれの代表的なUa値から、年間の冷暖房負荷を求める
  • 年間冷暖房負荷を空調機器のCOPで割って冷暖房に必要な年間消費電力量を求める
  • 冷暖房消費電力量のうち、太陽光発電で賄う割合、系統からの買電で賄う割合を計算
  • 太陽光発電で賄う電力は、本来売電で得られるはずの収入がなくなったとして売電単価を、買電で賄う電力は買電単価をかけて、冷暖房電気料金を計算
  • 毎年買電単価は+4.8%増加*2すると考え、60年後までの料金を計算
  • 60年間の積算電気料金を比較

それから、方針として基本的にi-smartに有利なように(光熱費差が大きくなる方向に)計算します。

計算条件

以下の条件で試算することにします。

  • 買電単価は東京電力スマートライフLの昼間・夜間の平均32円/kWhが+4.8%/年で増加
  • 売電単価は10年目までは17円/kWh、卒FIT後は現状の8.5円/kWhが続く*3
  • 年間冷暖房負荷
    • i-smile, i-smartそれぞれのカタログUa値(0.38, 0.25)の年間冷暖房負荷(横浜)を使用*4
    • i-smile:年間暖房負荷8.7kWh/m2、冷房負荷17.6kWh/m2
    • i-smart:年間暖房負荷2.3kWh/m2、冷房負荷17kWh/m2
    • 冷暖房負荷に経年劣化はなし*5
  • 太陽光で賄える割合
    • 晴天の日のうち、日の出(夏6時、冬8時)~蓄電池で放電できる22時までを太陽光で賄う*6*7
    • 晴天の日の割合は、気象庁の東京の降水日数平均値*8から、夏は45.1%、冬は66.7%とする。この日以外は全て買電で賄う
    • 晴天の日に太陽光で賄えない負荷の割合は、時間ごとの室温と外気温の差を時間帯別に積算して算出。夏は4.8%、冬は夜46.0%とする
  • COPは冷暖房ともに3*9
  • 延床面積は105m2(32坪)

結果

上記の条件で60年間の積算をすると以下のようになりました。(表は簡略化のため、後半5年おきしか表示していません)

60年トータルの冷暖房電気料金は、i-smile: 598万円、i-smart: 429万円で、i-smartのほうが169万円安い、という結果でした。この差は一見大きそうにみえますが、冒頭で述べた330万円という建物本体価格の差を埋められません。

また、330万円初期投資が少なく済むということは、借入した場合にはローン金利が安く済みますし、投資に回せば60年の間収益が得られるわけです。

そのため、少なくとも今回計算した横浜の冷暖房負荷の場合では、断熱性能の差による光熱費の差だけではi-smartとi-smileの価格差はペイしない、ということになります。

こちらの記事だとHEAT20 G2とG3で床温度に大きな差はないことから、快適性の向上も同じ全館床暖ならそこまで差がなさそうにも思えるので、i-smileのコストパフォーマンスの高さを改めて感じました。

そして、こんなこと気にしているような自分はi-smileを選択して正解だなあと思います。

*1:2022年2月当時

*2:蓄電池、電気自動車、おひさまエコキュート 特徴と選択法+12月の見学会情報3件 - YouTube

*3:卒FIT後の買取価格は低下が見込まれるがここでは固定

*4:全国各都市でUA=0.38+熱交換換気の住宅を建てた場合の年間暖房負荷! | 菊池組スタッフ日記

*5:他の記事で紹介されている論文だと、i-smileで採用されるEPSは経年劣化なくi-smartのウレタンフォームは経年劣化がありそうだが、考慮しない

*6:実際は曇天でも多少発電するがここでは晴天のみ考慮

*7:蓄電池で放電する時間はロスがあるが未考慮

*8:気象庁 | 季節予報:晴れ日数と降水日数の平年値

*9:長府温水床暖房熱源機のCOPは3.6~4程度と考えられるが低めとしi-smartに有利に計算

【一条工務店i-smile】電力量および電気料金実績値(2023年10~12月)

以前の記事から3か月分(10~12月)の電力量および電気料金実績値を紹介します。

dededemio.hatenablog.jp

建物概要

電力量

我が家の10~12月の電力量(kWh)は以下の通りでした。

年月 発電 消費 売電 買電 充電 放電
2023/10 794 579 303 133 228 185
2023/11 568 635 115 225 219 178
2023/12 563 746 88 317 254 208

入居(2023/4)からの電力量グラフは以下の図のようになりました。

  • 入居(2023/4)からのトータルの自給率等は以下でした。
    • エネルギー自給率*1は73.3%
    • 売電を含んだトータルのエネルギー自給率*2は160%
    • 自家消費率*3は50.1%
  • 冬になって消費がかなり増えてきました。1か月700kWh越えは使いすぎな気がします。
  • 12月から蓄電池をスマートモードとして、夜間電力で多少充電してみています。そのため12月は充放電ともに電力が増えました。
    • 蓄電池の充放電効率*4は81.3%ほどでした。昼夜の電気料金の差は28.06/35.96=78%で、蓄電池を使うと1.4円/kWhくらい得にはなるのですが、この程度だとあまりやる意味はないかもしれません。

電気料金

10~12月の電気料金は以下の通りでした。

年月 電気料金[円] 売電収入[円]
2023/10 6,710 5,083
2023/11 7,958 2,686
2023/12 9,275 1,428

入居(2023/4)からの電気料金グラフは以下の図のようになりました。

  • 10-12月は発電が減りどの月も赤字でした。4-12月の総計ではまだ15,614円の黒字です。
  • 転居前は電気料金だけで年間22万円、ガスで4.5万円かかっていたことを考えると驚異の光熱費の差だと思います。

*1:消費に対して買電以外で賄った電力量 (1-買電÷消費)×100[%]

*2: 発電÷消費×100[%]

*3:発電電力のうち自家消費した割合 (1-売電÷発電)×100[%]

*4:放電電力量÷充電電力量

エコキュートとガス給湯器の性能差

新居(一条工務店i-smile)でエコキュートを使って半年がたちました。エコキュートは湯を沸かして貯めておくという性質上、無駄な湯沸かしや放熱ロスがあるため、ガス給湯器と比べて電気料金・CO2排出量的によいのかが気になりました。

例えば、以下の記事には光熱費の節約、CO2排出量の抑制が謳われていますが、本当でしょうか? powergrid.chuden.co.jp

この記事では、エコキュートの実際の利用を考慮した1日の電気料金・一次エネルギー消費量・CO2排出量を計算します。また、ガス給湯器でも計算し、性能を比較してみます。

この記事の目次です。

エコキュートの必要湯量と加熱量

エコキュートはタンクにお湯をあらかじめ沸かして貯めておきます。その場合、以下の無駄が発生します。

  • 体積膨張
    • 水がお湯になると3%体積膨張します*1。その分のお湯はタンク内に貯めておくことができずタンク外に排水されます。
  • 無駄な湯沸かし
    • 1日の使用湯量はその日の状況によって変わります。湯切れが起こると困るので、エコキュートは1日の使用湯量よりも多めに沸き上げをします。またシャワー1回分の湯量(42℃80L程度)を確保するよう、湯量が低くなると勝手に沸き上げを行うようです*2
  • 放熱ロス
    • 前回の記事で試算しましたが、タンクに湯をためておくと65℃の場合1時間あたり0.4~0.5℃湯温が低下します。この分を含めて沸き上げないといけないので、余計な沸き上げが発生します。

dededemio.hatenablog.jp

こういった無駄を考慮して、冬期と中間期で1日に必要な湯量と加熱量を計算します。以下の条件とします。

  • エコキュート三菱電機のSRT-W375(370L)を想定
  • 給水温度(水道から取水する水の温度)は冬期10℃、中間期17℃とする
  • 必要蛇口水量(42℃水量)は435L*3
    • 湯切れが起こると困るので、42℃80Lを余計に毎回沸き上げるが、これは使わず翌日に持ち越す
    • 実際は残湯量が少なくなると勝手に沸き上げるが、ここではあらかじめ多めに沸き上げるものとする
  • 夜間(朝5時)/昼間(13時)沸き上げのそれぞれで計算する。当日19時に必要水量を全部利用、翌日まで残り80Lを保温してまた沸き上げる
  • 沸き上げ温度は65℃とする。19時の利用時や翌日はタンク温度が自然放熱で低下する
  • 体積膨張は水から沸き上げた場合に発生し、3%が無駄になる

このとき必要な貯湯タンクと使用湯量を以下のように計算します。

  • 貯湯量[L] = (必要水量+80)[L] × ( (蛇口温度42[℃]-給水温度[℃])÷(沸き上げ温度=65[℃]-給水温度[℃]) )
  • 実使用湯量[L] = 必要水量[L] ×( (蛇口温度42[℃]-給水温度[℃])÷(使用時タンク温度[℃]-給水温度[℃]) )
  • 残湯量[L] = 貯湯量 - 実使用湯量

このとき、ヒートポンプで新規に給水温度から沸き上げる湯量と、前日からの残湯を沸き上げる量は以下になります。

  • 新規沸き上げ湯量 = 実使用湯量[L] ÷ (1-3[%]/100)
  • 追加沸き上げ湯量 = 残湯量[L]

そして、上記の湯量を沸かすための加熱量は以下で計算できます。

  • 加熱量[kWh] = 湯量[L] × (沸き上げ温度[℃] - 給水温度 or 残湯温度[℃]) × 4.184[J/cal] ÷ 3600[s/h]

上記で必要湯量と加熱量を計算したところ、以下のようになりました。

季節 必要湯量[L] 実使用湯量[L] 残湯量[L] 加熱熱量[kWh]
冬期(夜間) 300 285 15.0 19.0
冬期(昼間) 300 266 33.9 18.1
中間期(夜間) 268 255 13.6 14.9
中間期(昼間) 268 238 30.4 14.1

昼沸き上げのほうが使用までのロスが少なく使用湯量・加熱量も少なくなっています。

エコキュートの電気料金・一次エネルギー消費量・CO2排出量

1日のエコキュートの加熱量が求まったので、これをもとに以下の条件で電気料金などを計算していきます。

  • COPは仕様表の中間期標準加熱能力/消費電力、冬期高温加熱能力/消費電力から計算し、昼夜同値とする
  • 電気料金は、深夜沸き上げは東京電力スマートライフLの深夜料金から政府補助を抜いた金額(31.56[円/kWh]、2023/12現在*4 )、昼間沸き上げは太陽光売電単価(17[円/kWh]、2023年売電開始)を利用
  • 一次エネルギー消費量・CO2排出量は夜間のみ計算し、東京電力の以下の係数を用いる
    • 一次エネルギー消費量換算係数:9,280kJ/kWh*5
    • CO2排出量換算係数:0.376 kg-CO2/kWh*6

結果、エコキュートの1日の電気料金、一次エネルギー消費量、CO2排出量は以下になりました。

季節 COP 電気料金[円] 一次エネルギー消費量[MJ] CO2排出量[kg-CO2]
冬期(夜間) 3.0 202 59.3 2.4
冬期(昼間) 3.0 104 0.0 0.0
中間期(夜間) 4.3 110 32.4 1.3
中間期(昼間) 4.3 57 0.0 0.0

昼間は消費電力も少なく済むうえ売っても安価な太陽光を使うので料金的にもかなりメリットがあることがわかります。極力昼間に沸かしたほうがよさそうです。

ガス給湯器のガス料金・一次エネルギー消費量・CO2排出量

続いて、ガス給湯器も同様にガス料金、一次エネルギー消費量、CO2排出量を計算してみます。

ガス給湯器はエコキュートよりはシンプルに、給水温度→蛇口温度に要する熱量から必要ガス量を計算し、それに電気料金単価や換算係数をかけていきます。

  • 必要ガス量[m3] = 必要蛇口水量[L] × (蛇口温度[℃] - 給水温度[℃]) ÷ (ガス熱量[kcal/m3]) ÷ 効率[%]

条件は、エコキュートと同様以下とします。

  • 必要蛇口水量(42℃水量)は435L
  • 給水温度(水道から取水する水の温度)は冬期10℃、中間期17℃とする
  • 効率はエコジョーズの値93%とする*7
  • ガス単価は東京ガス一般契約料金(20~80m3/月)の単価から政府補助を抜いた値(158.88[円/m3] *8 )とする
  • 一次エネルギー消費量・CO2排出量は東京ガスの以下の値を用いる*9
    • 一次エネルギー消費量換算係数:45[MJ/m3]
    • CO2排出量換算係数:2.21[kg-CO2/m3]
  • エコキュートとは逆に体積膨張によって温水の体積が上がる。42℃まで水温を上げた時の体積膨張分1.5%を必要水量から減らす。

上記の条件でガス給湯器の1日の給湯に必要なガス量およびガス料金、一次エネルギー消費量、CO2排出量を計算した結果、以下のようになりました。

季節 加熱熱量[kcal] ガス使用量[m3] ガス料金[円] 一次エネルギー消費量[MJ] CO2排出量[kg-CO2]
冬期 13,714 1.4 217.8 61.7 3.0
中間期 10,714 1.1 170.2 48.2 2.4

エコキュートとガス給湯器の比較

エコキュートとガス給湯器の加熱熱量は単位が異なります。単位を合わせて比較すると、以下のようになりました。

比較 冬期比較 加熱熱量[kcal] 電気・ガス料金[円] CO2排出量[kg-CO2]
冬期 エコキュート(夜間) 16,376 202 2.4
エコキュート(昼間) 15,568 104 0.0
ガス給湯器 13,714 218 3.0
中間期 エコキュート(夜間) 12,790 110 1.3
エコキュート(昼間) 12,171 57 0.0
ガス給湯器 10,714 170 2.4

こう見ると、条件の厳しい冬期でもエコキュートのほうが7%電気料金が少なく、昼間の太陽光発電の電力を使えば半額以下で給湯できることがわかります。COPのよくなる中間期はより良いので、エコキュートのほうが光熱費・CO2排出量を削減できそう、というのは本当のようです。

湯を余分に沸かして使わなかった場合の比較

エコキュートは、ガス給湯器と比べて電気料金・CO2排出量的によい、という結果になりましたが、私がそもそも気にしていたのは冒頭のツイートのように、余分に沸かしてしまった場合です。

この場合、放熱ロスした分をCOPの低い温度帯で加熱するためより悪化するのではないかという懸念があります。 そこで、以下の条件でさらに比較してみます。

  • 家庭内でも給湯需要は±100L程度の偏差が存在*10。そこで、必要蛇口水量(42℃水量)が315L~515L程度幅があるものとし、エコキュートでは80Lの余裕含む515Lを沸き上げるが315Lしか使わない日が続いた場合の1日の料金・CO2排出量を比較する。
  • 冬期・夜間のみ比較

すると、結果は以下のように、ややエコキュートのほうが電気料金が高くなることになりました。

機器 42℃換算加熱湯量[L] 加熱熱量[kcal] 電気・ガス料金[円] CO2排出量[kg-CO2]
エコキュート(夜間) 515 12,685 161.4 1.9
ガス給湯器 315 9,931 157.7 2.2

つまり、毎回42℃で500L(65℃300L)近く沸き上げていても、2/3しか使わなかったら、冬の夜間沸き上げの場合は放熱ロスでガス給湯器とトントンになってしまう、ということになります。

まとめ

エコキュートを使って光熱費を下げるなら、特に冬はなるべく需要に応じた量だけ沸かしておくような調整が必要だとわかりました。

我が家では太陽光で昼間湯を沸かしていますが、さらに使用湯量モードで最小の200Lを設定して沸き上げるように変更しました。これで一日の終わりに湯が少なくなった旨のアラートが出るので、ちょうどいい湯量なのかと思います。

おひさまエコキュートではないので、雨の日に夜間沸き上げに手動で切り替えないといけないのですが、その場合の放熱ロスでもこの程度の湯量でいいか、継続して様子見・調整していきます。

エコキュート貯湯タンクの放熱ロスと、断熱強化の効果試算

新居(一条工務店i-smile)でエコキュートを使っています。エコキュートは湯を沸かしてタンクに貯めるのですが、タンクからの放熱ロスが発生します。これを抑えるための断熱をDIYで行われている方もいるようです。

本記事では、エコキュートの貯湯タンクの放熱ロスがどの程度あるのかを計算します。また、断熱強化によってどの程度効果が得られるか試算したいと思います。

(2023-12-23 06:30 計算ミスがあったので、数値と文言を一部修正しました)

目次

エコキュート貯湯タンクの放熱ロスの計算方法

我が家のエコキュート三菱電機のSRT-W375(370L)です。エコキュートの貯湯タンクは、真空断熱材、ウレタン、EPSなどが使われているようです。しかし、断熱性能が具体的にどの程度なのか、といった記述は見当たりませんでした。

www.mitsubishielectric.co.jp

そこで、実際に貯湯タンクの湯温がどの程度低下するか、という点から、貯湯タンクの断熱性能(熱貫流率)を推測します。熱貫流率さえわかれば、任意の外気温・タンク内温度の時の放熱ロスも求められるようになります。

貯湯タンクの熱損失は、前回の床暖房設定温度の記事でも記載した通り、以下で求まります。

  • 熱損失[W] = 筐体面積[㎡] × 熱貫流率[W/㎡K] × (外気温[℃] - タンク内温度[℃])

これは単位時間あたりエネルギーなので、この熱損失が加わり続けた場合、1時間でタンク内の湯が何度低下するか、は以下で求まります。

  • 温度低下[K] = 熱損失[Wh=Jh/s]×3600[s/h] ÷ 4.184[J/cal] ÷ (貯湯量[L] × 1000)[g]

1Wの熱損失が1時間あると1Whです。これに3600/4.184をかけるとcalになります。1calが水1gの温度を1℃上げるのに必要な熱量なので、湯の質量で割ってやると、どの程度温度が低下したかがわかります。

実際の温度低下を計測して上記の式に当てはめれば、不明な変数である熱貫流率[W/㎡K]が推測できます。

貯湯タンクの湯温低下と残湯量の実測値

タンク内温度は台所リモコン操作で確認しました。

タンク内温度の確認方法

今の設定では、昼の11~13時に太陽光の電力を使って200L設定で沸かした後、夕方湯を使っていますので、13時~翌8時で確認してみました。以下の表が、実際にエコキュートで確認したタンク湯温と湯量です。

日付 13時 17時 20時 翌8時
2023-12-18 タンク内温度 65℃ 64℃ 63℃ 57℃
残湯量 4 4 2 2
2023-12-20 タンク内温度 65℃ 63℃ 62℃ 55℃
残湯量 3 3 2 1

13時~17時はほぼ自然放熱で、4時間で2℃ほど、17時~20時にメインで湯を使い、20時~翌8時も自然放熱と考えられます。1時間で0.5℃ほどが自然放熱による低下とみてよさそうです。

貯湯タンクの熱貫流率の推定

先ほどのデータからエコキュートタンクの外皮の熱貫流率を推測します。以下の条件で熱貫流率を少しずつ変更して1時間毎の温度低下を計算し、温度低下データとフィッティングしてみます。

  • 外気温はSwitchBot防水温湿度計で計測したデータを用います
  • 表面積はタンクのうち湯がある部分の外皮面積と考え、タンクのカバーの上面積と、側面のうち残湯量の割合の面積の和とします*1
    • 残湯量は4段階しかありませんが、取説によると370L機種では4=290L以上、3=220L~290L、2=220~150L、1=150L以下のようですので、この辺の数字になるようざっくり見積もります。

すると、タンクの熱貫流率は0.6[W/㎡K]程となりました。家の窓よりは良いけれども壁には劣るくらいの性能ですかね。

冬期・中間期の放熱ロスの試算

上記の熱貫流率の数値を使って、任意の日の放熱ロスを計算してみます。後の記事で、冬期(外気温7℃)・中間期(外気温16℃)の沸き上げの計算をするので、これらの日の放熱ロスを計算します。また、放熱ロスだけでなくその分を沸き上げるための電力・電気料金も計算してみます。

  • 外気温は気象庁の横浜の平年データを使用*2
  • 冬期2/1、中間期11/10のデータを使用*3
  • 深夜5時/昼間13時に沸き上げが終わるものとし、その後24時間のロスを計算
  • 沸き上げは42℃360L+余分80Lとし、余分80Lを除いて19時に全量使用
    • タンク湯量は冬期65℃210L+46.5L、中間期65℃187.5L+41.2L
  • 45℃以上の湯がある部分と、それ以外で分けてロスを計算
    • 45℃以上の湯がある部分は、表面積をタンクカバー上面積+側面のうち残湯量の割合の面積とし、ロスを(湯温-外気温)×熱貫流率×表面積とする
    • それ以外は、側面のうち残湯量以外の割合の面積を表面積、45℃と給水温度の中間を水温とし、ロスを(水温-外気温)×熱貫流率×表面積とする
  • COPは仕様表の中間期標準加熱能力/消費電力、冬期高温加熱能力/消費電力から計算
  • 電気料金は、深夜沸き上げは東京電力スマートライフLの深夜料金(28.06円、2023/12現在)、昼間沸き上げは太陽光売電単価(17円/2023年売電開始)を利用

すると、以下のロスが発生するとわかりました。放熱ロス分だけで1日あたり10~30円くらい無駄にしていることになります。

季節 放熱ロス[kWh] COP 必要電力[kWh] 電気料金[円]
冬期(深夜) 3.11 3.0 1.04 29.1
冬期(昼間) 2.65 3.0 0.88 15.0
中間期(深夜) 2.48 4.29 0.58 9.8
中間期(昼間) 2.10 4.29 0.49 8.3

これを書いている最中に他の方がエコキュートのロスを計算しているのを見つけた*4のですが、こちらでは11月で1.5kWhの電力損失がある、と推測されていました。薄型機種であること、10年以上前の機種であること、使用湯量が多いことから、ロスが大きかったのではないかと思いますが、おおむねこのくらいの規模感のロスがありそうです。

貯湯タンクの断熱強化の効果試算

上記の記事や、他の記事*5で、エコキュートのタンクを断熱し保温効果を上げてロスを低減している方 がいます。今回タンクの熱貫流率がおおむね推測できたので、断熱強化したときにどの程度効果があるか計算してみます。

断熱材としてスタイロフォーム30mmをタンク外側に設置することを考えます。スタイロフォームは熱伝導率が0.036*6なので、30mmを追加するとタンク熱貫流率がざっくり0.6→0.4まで向上します。

このときの放熱ロスと電力損失を計算すると以下のようになりました。

季節 放熱ロス[kWh] COP 必要電力[kWh] 電気料金[円] 断熱強化前後の差[円]
冬期(深夜) 2.11 3.0 0.70 19.8 9.3
冬期(昼間) 1.79 3.0 0.60 10.2 4.9
中間期(深夜) 1.68 4.29 0.39 6.7 3.1
中間期(昼間) 1.42 4.29 0.33 5.6 2.7

夏は熱損失も少なくCOPも高いので考慮しないものとして、冬期3か月、中間期6か月上記のロスが抑えられるとすると、夜間沸き上げの場合年間で1,400円くらい電気料金を抑えられそうです。材料費は5,000円程度らしいので、深夜電力を使っている場合ならやる価値はありそうです。

ただ、日中の太陽光でエコキュートのお湯を沸かしている場合だと年間900円売電上昇、作業工数を考えるとやるかどうかは微妙かな、という感じでした。もう少し給湯負荷が高ければまた条件は変わってくるかもしれません。

*1:取扱説明書記載のタンク寸法(1820×630×760mm)から算出

*2:気象庁|過去の気象データ検索

*3:昼沸き上げ時刻に外気温7℃、16℃になる日を選定。COPは深夜に悪化するが同値で計算

*4:エコキュートの断熱

*5:エコキュートの断熱をしてみた。|kdhouse

*6:スタイロフォームの仕様

【一条工務店i-smile】床暖房設定温度の決定方法 (1)

一条工務店i-smileに引っ越して初めての冬が来ました。床暖房も使うのが初めてで、とりあえず他の方のブログ記事*1を参考に設定温度を決めて運転しています。

しかし、立地も形状も異なる家の実績を使って経験則で設定していても、寒い日があったりして設定の調整が難しいです。 そこで、もう少しスマートに床暖房設定温度を計算して決定する方法を考えました。

本記事では,床暖房設定温度の決定方法と我が家のリビングで実際に計算した結果を記載します。また、床暖房設定温度を計算するためのPythonスクリプトおよびExcelシートの使い方を記載します。

本記事の目次です。具体的にi-smileの床暖設定はどの程度が目安なのかは2.3をご覧ください。

(2024/1/11追記) 床暖房からの熱貫流率を変更しましたので、この記事の結果は外気温が変わると少し違ってきます。 床暖設定の目安は次の記事の計算結果を参照してください。

PythonスクリプトおよびExcelシートは以下に置いてあります. github.com PythonスクリプトWindows 11, Python 3.9.13で動作を確認しています。

1. 床暖房設定温度決定の基本的な考え方

まず、床暖房で室を暖房しているときの室温は、壁・窓・天井などからの熱損失と床暖房からの熱取得に影響されます。

熱取得が多ければ室温は上がりますし、熱損失が多ければ室温は下がります。室温が高くなるほど熱損失は大きく熱取得は小さくなるので、どこかで熱損失と熱取得が平衡します。この平衡するところがある外気温・床暖房設定温度の時の(過渡的な変化を除いた)室温になるはずです。

そこで、この熱損失・熱取得を計算して、ある外気温・床暖設定温度の時の室温を求められるようにします。

床暖房時の室温*2

次に、床暖設定温度を少しずつ変更して室温を計算していくと、ある外気温の時に目標室温にする場合の適切な設定温度がわかります。

これを、月(外気温)毎に計算すれば、どの程度の設定温度にすればよいかの目安が決まります。

2. 床暖房設定温度の決定方法

2.1 熱損失・熱取得と室温の計算

熱損失として、壁・窓・天井から逃げる熱のみを考えます。この熱は、熱貫流率を使って以下で求められます。

  • 熱損失[W] = 壁面積[㎡] × 熱貫流率[W/㎡K] × (外気温[℃] - 室温[℃])

貫流率の計算は、以下の記事が参考になります。後述のExcelシートの"熱貫流率計算"シートに計算式を入れてありますので、ここに壁・天井の建材の厚みと熱伝達率を記入すれば求まります。

壁の熱貫流率の算出⽅法について

以前Ua値を計算したときに使った数値を使い、我が家のi-smileの熱貫流率を算出したところ以下でした。i-smartだと断熱材や構成が異なりますが同様に計算できると思います。

dededemio.hatenablog.jp

対象室をリビング、目標室温は23℃、外気温を5℃として、外に面する壁の熱損失の合計を計算したところ246.4[W]になりました。

次いで、床暖房からの熱取得を計算します。床暖房は配管を流れる水の温度が設定温度になっており、そこから配管・床の構造材を経て室に熱が伝わるのですが、単純化のため構造材の下側すべて床暖房の設定温度になっているものとします。こうすると,構造材の熱貫流率を使って,壁の熱損失同様に以下のように計算できます。

  • 熱取得[W] = 床暖房敷設面積[㎡] × 床構造材熱貫流率[W/㎡K] × (床暖房設定温度[℃] - 室温[℃])

床構造材の熱貫流率は、2.7[W/㎡K] 3.717[W/㎡K] *5としました。また、床暖房設定値は26℃としました。このとき、床暖房からの熱取得は210[W]でした。室外に逃げる熱のほうが大きいので、室温は目標の23℃よりも低くなってしまうでしょう。

熱損失と熱取得が平衡する点の室温を計算してみます。Pythonだと、熱損失と熱取得の差の絶対値を関数として、その関数の返り値が0に最も近くなる変数をscipy.optimizeで求めることができます。

ある外気温・床暖設定・室温のときの熱損失と熱取得の合計を計算する関数calc_heat_diff(outdoor_temp, heating_setpoint, room_temp)を定義して、以下のようにすると熱が平衡する室温が求まります。

from scipy.optimize import minimize
from functools import partial

# 目的関数定義(外気温と床暖設定は固定)
objective_func = partial(calc_heat_diff, outdoor_temp, heating_setpoint)
# 室温初期値を指定
initial_guess = [outdoor_temp]
# 熱損失と熱取得が平衡する室温を求める
result = minimize(objective_func, initial_guess, method="Nelder-Mead")
# 結果表示
print(result.x[0])

これを実行してみると、室温は約22℃となりました。確かに、11月にちょうどよかった26℃設定のままにしていたのですが、最近急に冷え込んで、朝の外気温が5℃程度・室温が22℃ほどになり寒いなと感じていたので、妥当な結果と思います。

Excelでも、オプションからソルバーを有効化すると同様の計算ができます。

  • オプション→アドイン→Excelアドインの設定→"ソルバー アドイン"にチェックを入れてOKする
  • リボンのデータタブ→分析→ソルバーを開き、熱損失と熱取得の差のセルを"目的セル"に、室温セルを"変数セル"に指定する
  • "解決"ボタンをクリック

Excelソルバーで室温を計算する例

2.2 目標室温になる設定温度の算出

熱損失と熱取得から,ある外気温・床暖設定の時の室温が求められるようになったので,今度は目標室温にできる床暖の設定温度を算出してみます.

これも先ほどと同様に,scipy.optimizeで,ある外気温・目標室温であるときに、熱損失と熱取得の差が0になる床暖設定を求めればよいです.

def calc_heating_setpoint(room_setpoint, outdoor_temp):
    # 目的関数定義(外気温と室温を固定)
    objective_func = partial(calc_heat_diff, outdoor_temp=outdoor_temp, room_temp=room_setpoint)
    # 床暖設定初期値を指定
    initial_guess = [room_setpoint]
    # 床暖設定を引数に持つ関数をlambdaで定義し、最適化
    result = minimize(lambda x: objective_func(heating_setpoint=x), initial_guess, method="Nelder-Mead")
    # 結果を切り上げして返す
    return np.ceil(result.x[0])
print(calc_heating_setpoint(23, 5))

外気温5℃で室温23℃を達成するには床暖設定は27.2℃→切り上げして28℃必要ということでした。 いまは26℃だったので、ちょっと設定を上げたほうがよさそうですね。

Excelでも先ほどと同様にソルバーを使って、床暖設定温度のセルを"変数セル"に指定すれば計算できます。

2.3 外気温別・月別の設定温度目安

床暖設定温度が求められるようになったので、外気温別に設定温度目安を求めてみます。

room_setpoint = 23 # 目標室温
outdoor_temp = np.round(np.arange(-5.0, 15.0, 1), 1)
heating_setpoint = [calc_heating_setpoint(room_setpoint, x) for x in outdoor_temp]

外気温別の床暖設定温度目安
ざっくり、外気温が4℃下がるごとに床暖設定を1℃ずつ上げたら良さそうです。

次に、月別の設定目安も検討してみます。床暖房のリモコンでは時間帯別に通常温度とセーブ温度が設定できるので、それぞれどの程度の温度にするべきかを考えます。

気象庁の過去データダウンロードページから、自分の住む地点の温度の時別値を1年分ダウンロードします。表示オプションで欠損データ・不均質データは表示しないとすれば、1回でダウンロードできるはずです。

気象庁の過去データダウンロードページ

これを読み込んで、月別・時間帯別の外気温を計算します。通常温度(夜間の設定温度)は18時~翌9時まで、セーブ温度(昼間の設定温度)はそれ以外の時間帯とします。

夜間は最低気温でも室温が維持できるようその時間帯の最小値、昼間は日射も期待できるのでその時間帯の平均値を外気温とし、外気温別に設定温度目安を計算します。

# 気象庁データの読み込み
temp_act = pd.read_csv("data.csv", header=2, index_col=0, encoding="shift-jis")
temp_act.index = pd.to_datetime(temp_act.index)
# 10月~4月を対象に計算
month = [10, 11, 12, 1, 2, 3, 4]
setpoint = pd.DataFrame(columns=["通常温度", "セーブ温度"]) # 月別設定温度データ
temp_min_avg = pd.DataFrame(columns=["夜間最低気温", "昼間平均気温"]) # 月別外気温データ
for m in month:
    # 月別の昼・夜間データを抽出
    temp_month = temp_act[temp_act.index.month==m]
    temp_night = temp_month[(temp_month.index.hour >= hour_start_night) | (temp_month.index.hour < hour_end_night)]
    temp_day = temp_month[(temp_month.index.hour < hour_start_night) & (temp_month.index.hour >= hour_end_night)]
    # 夜間最低温度、昼間平均気温を格納
    temp_min_avg.loc[m] = [temp_night.min()[0], round(temp_day.mean()[0],1)]
    # 目標室温を保つ設定温度を計算して格納
    setpoint_night = calc_heating_setpoint(room_setpoint, temp_night.min()[0])
    setpoint_day = calc_heating_setpoint(room_setpoint, temp_day.mean()[0])
    setpoint.loc[m] = [setpoint_night, setpoint_day]
print(temp_min_avg)
print(setpoint)

横浜の2022年の外気温データで計算した結果、以下の設定が目安となりました。

夜間最低気温 昼間平均気温 通常温度 セーブ温度
10 9.7 19.4 27 24
11 9.1 17.1 27 25
12 1.4 10.3 29 26
1 -1.4 7.3 29 27
2 -0.2 7.9 29 27
3 2.3 13.4 28 26
4 4.2 17.4 28 25

Excelだとこの計算は面倒なので、月別の最低/平均気温の統計値*6を使って各外気温の時の設定をソルバで計算するのがよさそうです。

3. PythonスクリプトExcelシートの使い方

3.1 Pythonスクリプトの使い方

スクリプトfloor_heating_setpoint.pyをダウンロードし、ローカルに置きます。 スクリプト中の10行目~23行目に,以下のパラメータを入力します。

  • 建物毎に共通のパラメータ
    • 壁・窓・天井の熱貫流率[W/㎡K]
    • 床暖房パイプから床までの熱貫流率[W/㎡K]
      • これらは2.1で説明した方法で算出します。
  • 部屋毎に変更するパラメータ
    • 窓含む壁の面積[㎡]
    • 窓の面積[㎡]
    • 天井の面積[㎡]
    • 床暖房の敷設面積[㎡]
      • これらは平面図・立面図から読み取ります。

また、2.3に記載したように、自分の居住地域の1年分の気温データをダウンロードして、data.csvとしてスクリプトと同じフォルダに入れます。

コマンドプロンプトからpython floor_heating_setpoint.pyを実行すると、月別の床暖房設定温度目安が出力されます。 jupyter notebookなどで実行すれば、上記の外気温別設定のグラフも出力できます。

3.2 Excelシートの使い方

Pythonスクリプトと同様のパラメータを、B列に入力します。 その後、本文で記載したようにソルバーを使って外気温別の設定温度を計算しH列に入れていきます。

また、月別最低・平均気温をK・L列に記入すると、O・P列に設定温度目安が計算されて表示されます。

注意点

上記の計算では以下の点に注意が必要です。

  • 一条工務店の家ではロスガード90による24時間換気がされています。熱交換しているとはいえ室温より低い外気が入ってくるため熱損失になりますが、これは考慮していません。人体や機器の発熱とおおむね相殺されるかと考えたためです。しかし、外気温があまりに低い=熱損失が大きい場合や、人・機器など他の発熱が少ない室などは考慮したほうが良いかもしれません。
  • 対象室と、隣室・廊下とはドアの隙間から空気が出入りします。他の部屋が異なる温度の場合、そこでも熱の損失・取得がありますがこれも考慮していません。
  • 壁の熱貫流率は熱橋を考慮しておらず、少し低い(熱損失が小さい)値になっています。また,床暖房からの熱取得はかなりいい加減な値です。
  • 設定温度変更時に床暖房が温まるまでの遅延も考慮外です。
  • まだ我が家のリビングでしか妥当性を確認してません。小さな部屋や洗面室ではうまくいかないかもしれません。
  • そもそも目標とする室温をどう決めたらいいか、は別問題としてあります。室の目的や好みによっても変わるので、それも含めて調整する、という過程が必要な気もしてます。

とりあえずそれらしい値が出てきたので、リビングはこれを設定して運転させてみます。また、他の部屋も計算して、設定・検証してみようと思います。

長々書きましたが、もっと簡易な方法があるよとか、ここがおかしい等のツッコミがあれば教えてください。

(追記)続きを書きました。

dededemio.hatenablog.jp

*1:例えば【一条工務店】床暖房の設定温度と注意すべきポイント【一条工務店】床暖房で室温を22・23℃にする最適な設定温度 - となりのi-smartなど

*2:一条工務店HPの画像に追記して作成

*3:我が家はi-smileですが、オプションで一条工務店の防犯ツインLow-Eトリプル樹脂サッシにしているので0.8としてます。i-smile標準の高性能樹脂サッシだと1.4になるようです

*4:開き窓より多少悪くなります

*5:床上表面熱伝達抵抗と配管から床表面までの熱抵抗は0.269なので、熱貫流率はこの逆数で3.717とする。文中の計算は2.7のまま

*6:例えば横浜なら気象庁|過去の気象データ検索 | 横浜(神奈川県) 平年値(年・月ごとの値)

PythonでGmailおよびOutlookからメールを送信

以前、Juliaでメール送信するプログラムを紹介しました。

dededemio.hatenablog.jp

Pythonでも同様のことを行うプログラムについて紹介します。

目次

動作環境

Pythonでのメール送信方法(smtplib)

  • Pythonでのメール送信自体は、smtplibと、email.messageというモジュールが使えます。
import smtplib
from email.message import EmailMessage

subject = "題名"
message = "本文"
msg = EmailMessage()
msg['From'] = from_email
msg['To'] = to_email
msg['Subject'] = subject
msg.set_content(message)

with smtplib.SMTP(smtp_server, smtp_port) as smtp:
    smtp.starttls()
    smtp.login(username, password)
    smtp.send_message(msg)

メール設定の保存(configparser)

  • メール設定は外部に持っておくようにします。ここでは、configparserを使って、テキストファイルから読んでみます。
from configparser import ConfigParser
# 設定ファイルを読み込む
config = ConfigParser()
config.read('config_email.ini')
smtp_server = config.get('mail', 'smtp_server')
smtp_port = config.getint('mail', 'smtp_port')
from_email = config.get('mail', 'from_email')
to_email = config.get('mail', 'to_email')
username = config.get('mail', 'username')
password = config.get('mail', 'password')
  • 上記のようにconfig.readで読んだテキストファイルから、設定を読み出します。config.iniは以下のように記述します。
[mail]
smtp_server = smtp.gmail.com
smtp_port = 587
from_email = yourname@gmail.com
to_email = hisname@gmail.com
username = yourname@gmail.com
password = yourpassword

Gmailのメール送信の設定

  • GmailでメールをSMTPで送信するときは、サーバをsmtp.gmail.comに、ポートは587とします。

support.google.com

  • 以前はGoogleアカウントのセキュリティ設定で「安全性の低いアカウント」をONにしておけば、Googleアカウントのユーザー名・パスワードでSMTPをそのまま使えていたものの、現在はその設定が使えないようです。
  • そこで、アプリパスワードと呼ばれる別のパスワードを設定します。手順は以下の記事にありますが、
    • Googleアカウントに二段階認証を有効にする
    • セキュリティ→アプリパスワードで、パスワードを生成する
    • そのパスワードをconfigのpasswordに記載する

を行えば送信できます。

qiita.com

Outlookのメール送信の設定

  • OutlookでメールをSMTPで送信するときは、サーバをsmtp.office365.comに、ポートを587とする必要があるようです。

  • ちなみに、OutlookGmailと同様、アプリパスワードが必要になっています。

support.microsoft.com

  • 手順もGmailと同様で、
    • Microsoft accountからセキュリティ→高度なセキュリティオプションで、二段階認証を有効にする
    • 高度なセキュリティオプション→アプリパスワードから、アプリパスワードを生成する
    • 上記のパスワードをconfigのpasswordに記載する

とすれば送信できます。