エコキュート貯湯タンクの放熱ロスと、断熱強化の効果試算

新居(一条工務店i-smile)でエコキュートを使っています。エコキュートは湯を沸かしてタンクに貯めるのですが、タンクからの放熱ロスが発生します。これを抑えるための断熱をDIYで行われている方もいるようです。

本記事では、エコキュートの貯湯タンクの放熱ロスがどの程度あるのかを計算します。また、断熱強化によってどの程度効果が得られるか試算したいと思います。

(2023-12-23 06:30 計算ミスがあったので、数値と文言を一部修正しました)

目次

エコキュート貯湯タンクの放熱ロスの計算方法

我が家のエコキュート三菱電機のSRT-W375(370L)です。エコキュートの貯湯タンクは、真空断熱材、ウレタン、EPSなどが使われているようです。しかし、断熱性能が具体的にどの程度なのか、といった記述は見当たりませんでした。

www.mitsubishielectric.co.jp

そこで、実際に貯湯タンクの湯温がどの程度低下するか、という点から、貯湯タンクの断熱性能(熱貫流率)を推測します。熱貫流率さえわかれば、任意の外気温・タンク内温度の時の放熱ロスも求められるようになります。

貯湯タンクの熱損失は、前回の床暖房設定温度の記事でも記載した通り、以下で求まります。

  • 熱損失[W] = 筐体面積[㎡] × 熱貫流率[W/㎡K] × (外気温[℃] - タンク内温度[℃])

これは単位時間あたりエネルギーなので、この熱損失が加わり続けた場合、1時間でタンク内の湯が何度低下するか、は以下で求まります。

  • 温度低下[K] = 熱損失[Wh=Jh/s]×3600[s/h] ÷ 4.184[J/cal] ÷ (貯湯量[L] × 1000)[g]

1Wの熱損失が1時間あると1Whです。これに3600/4.184をかけるとcalになります。1calが水1gの温度を1℃上げるのに必要な熱量なので、湯の質量で割ってやると、どの程度温度が低下したかがわかります。

実際の温度低下を計測して上記の式に当てはめれば、不明な変数である熱貫流率[W/㎡K]が推測できます。

貯湯タンクの湯温低下と残湯量の実測値

タンク内温度は台所リモコン操作で確認しました。

タンク内温度の確認方法

今の設定では、昼の11~13時に太陽光の電力を使って200L設定で沸かした後、夕方湯を使っていますので、13時~翌8時で確認してみました。以下の表が、実際にエコキュートで確認したタンク湯温と湯量です。

日付 13時 17時 20時 翌8時
2023-12-18 タンク内温度 65℃ 64℃ 63℃ 57℃
残湯量 4 4 2 2
2023-12-20 タンク内温度 65℃ 63℃ 62℃ 55℃
残湯量 3 3 2 1

13時~17時はほぼ自然放熱で、4時間で2℃ほど、17時~20時にメインで湯を使い、20時~翌8時も自然放熱と考えられます。1時間で0.5℃ほどが自然放熱による低下とみてよさそうです。

貯湯タンクの熱貫流率の推定

先ほどのデータからエコキュートタンクの外皮の熱貫流率を推測します。以下の条件で熱貫流率を少しずつ変更して1時間毎の温度低下を計算し、温度低下データとフィッティングしてみます。

  • 外気温はSwitchBot防水温湿度計で計測したデータを用います
  • 表面積はタンクのうち湯がある部分の外皮面積と考え、タンクのカバーの上面積と、側面のうち残湯量の割合の面積の和とします*1
    • 残湯量は4段階しかありませんが、取説によると370L機種では4=290L以上、3=220L~290L、2=220~150L、1=150L以下のようですので、この辺の数字になるようざっくり見積もります。

すると、タンクの熱貫流率は0.6[W/㎡K]程となりました。家の窓よりは良いけれども壁には劣るくらいの性能ですかね。

冬期・中間期の放熱ロスの試算

上記の熱貫流率の数値を使って、任意の日の放熱ロスを計算してみます。後の記事で、冬期(外気温7℃)・中間期(外気温16℃)の沸き上げの計算をするので、これらの日の放熱ロスを計算します。また、放熱ロスだけでなくその分を沸き上げるための電力・電気料金も計算してみます。

  • 外気温は気象庁の横浜の平年データを使用*2
  • 冬期2/1、中間期11/10のデータを使用*3
  • 深夜5時/昼間13時に沸き上げが終わるものとし、その後24時間のロスを計算
  • 沸き上げは42℃360L+余分80Lとし、余分80Lを除いて19時に全量使用
    • タンク湯量は冬期65℃210L+46.5L、中間期65℃187.5L+41.2L
  • 45℃以上の湯がある部分と、それ以外で分けてロスを計算
    • 45℃以上の湯がある部分は、表面積をタンクカバー上面積+側面のうち残湯量の割合の面積とし、ロスを(湯温-外気温)×熱貫流率×表面積とする
    • それ以外は、側面のうち残湯量以外の割合の面積を表面積、45℃と給水温度の中間を水温とし、ロスを(水温-外気温)×熱貫流率×表面積とする
  • COPは仕様表の中間期標準加熱能力/消費電力、冬期高温加熱能力/消費電力から計算
  • 電気料金は、深夜沸き上げは東京電力スマートライフLの深夜料金(28.06円、2023/12現在)、昼間沸き上げは太陽光売電単価(17円/2023年売電開始)を利用

すると、以下のロスが発生するとわかりました。放熱ロス分だけで1日あたり10~30円くらい無駄にしていることになります。

季節 放熱ロス[kWh] COP 必要電力[kWh] 電気料金[円]
冬期(深夜) 3.11 3.0 1.04 29.1
冬期(昼間) 2.65 3.0 0.88 15.0
中間期(深夜) 2.48 4.29 0.58 9.8
中間期(昼間) 2.10 4.29 0.49 8.3

これを書いている最中に他の方がエコキュートのロスを計算しているのを見つけた*4のですが、こちらでは11月で1.5kWhの電力損失がある、と推測されていました。薄型機種であること、10年以上前の機種であること、使用湯量が多いことから、ロスが大きかったのではないかと思いますが、おおむねこのくらいの規模感のロスがありそうです。

貯湯タンクの断熱強化の効果試算

上記の記事や、他の記事*5で、エコキュートのタンクを断熱し保温効果を上げてロスを低減している方 がいます。今回タンクの熱貫流率がおおむね推測できたので、断熱強化したときにどの程度効果があるか計算してみます。

断熱材としてスタイロフォーム30mmをタンク外側に設置することを考えます。スタイロフォームは熱伝導率が0.036*6なので、30mmを追加するとタンク熱貫流率がざっくり0.6→0.4まで向上します。

このときの放熱ロスと電力損失を計算すると以下のようになりました。

季節 放熱ロス[kWh] COP 必要電力[kWh] 電気料金[円] 断熱強化前後の差[円]
冬期(深夜) 2.11 3.0 0.70 19.8 9.3
冬期(昼間) 1.79 3.0 0.60 10.2 4.9
中間期(深夜) 1.68 4.29 0.39 6.7 3.1
中間期(昼間) 1.42 4.29 0.33 5.6 2.7

夏は熱損失も少なくCOPも高いので考慮しないものとして、冬期3か月、中間期6か月上記のロスが抑えられるとすると、夜間沸き上げの場合年間で1,400円くらい電気料金を抑えられそうです。材料費は5,000円程度らしいので、深夜電力を使っている場合ならやる価値はありそうです。

ただ、日中の太陽光でエコキュートのお湯を沸かしている場合だと年間900円売電上昇、作業工数を考えるとやるかどうかは微妙かな、という感じでした。もう少し給湯負荷が高ければまた条件は変わってくるかもしれません。

*1:取扱説明書記載のタンク寸法(1820×630×760mm)から算出

*2:気象庁|過去の気象データ検索

*3:昼沸き上げ時刻に外気温7℃、16℃になる日を選定。COPは深夜に悪化するが同値で計算

*4:エコキュートの断熱

*5:エコキュートの断熱をしてみた。|kdhouse

*6:スタイロフォームの仕様