以下の記事で床暖房設定温度のちょうどいい値を検討しました。
その後1ヶ月ほど運用したのですが、外気温が下がると室温が思ったより低めになる事に気づきました。 そこで、前回考慮しなかったロスガードによる熱損失増を考慮して計算し、実績に近くなるか検証しました。
また、前回は計算しなかったリビング以外の部屋も計算してみました。
Pythonスクリプトを修正して以下に置いてあります。 PythonスクリプトはWindows 11, Python 3.9.13で動作を確認しています。
(Excelシートは修正していませんが、以下に記載の内容を同様に追加すれば、計算できるようになると思います。)
以下がこの記事の目次です。
前回方法によるリビング室温予測値と実績値の差異
12月初めに床暖房設定温度の決定方法を考えてから、床暖房設定をその方法に則り調整するようにしました。その後12/28ごろまで、床暖房設定温度、朝の最低気温、室温の実績を記録したので、予測値と実績を比較してみました。
以下の図が、前回記事で記載した方法で室温予測したもの(直線)と、実績(*印)を比較したものです。
見ての通り、設定温度が低く外気温が高めの場合では誤差は少ないものの、外気温が低くなり設定温度を高くした場合に乖離が大きくなります。これは、外気温の影響を考慮しきれていないことが原因と思います。
外気温に影響を受けるのは、壁からの伝熱損失以外には、換気熱損失、すきま風負荷があります。すきま風負荷は、気密性が良い一条工務店の家ではそこまで大きくないと考えます。そこで、ここでは換気熱損失を追加で計算します。
ロスガードによる換気熱損失
換気による熱損失は、換気によって室内外で入れ替わる空気の温度差と風量、全熱交換器(ロスガード)による外気・排気間の熱交換効率を使って、以下で計算できます*1。
- 熱損失[W] = 0.33×換気風量[㎥/h]×温度差[K]×熱交換効率[-]
顕熱の熱交換効率はカタログ値で0.9です。 換気風量は、シックハウス換気計算書にに室毎の風量[㎥/h]が記載されているのでこれを使えます。我が家のリビングは54.2[㎥/h]でした。
室温23℃、外気0℃の場合、370[W]の熱損失となります。結構大きいですね。
修正方法によるリビング室温予測値と実績値の差異
以下の図が、ロスガードによる換気熱損失を考慮した、予測室温と実績の比較図です。
先ほどよりは実績と予測が近くなっていることがわかるかと思います。 ただ、相変わらず隣室との空気の出入りやそれまでの蓄熱による影響は考慮していないので、多少の誤差が出てますが仕方ないかなと思います。
玄関ドア・土間の熱損失
他の部屋の床暖房設定を考えようと思ったのですが、玄関ドア・土間・浴槽が未考慮だったので、ここからの熱損失も考慮します。
玄関ドアは、熱貫流率のカタログ値を使って壁と同様に計算します。 我が家の玄関ドアはプロノーバの型番32であったため、カタログから熱貫流率1.54*2を持ってきて使います。
玄関土間は、線熱貫流率[W/mK]と外周長さ[m]を使って、以下の式で計算します。
- 玄関土間の熱損失[W]=線熱貫流率[W/mK]×外周長さ[m]×内外温度差[K]
線熱貫流率は0.99とします*3。また、外周長さは、土間のうち外部に面する外周の長さとし、我が家の場合2.89[m]としました。
浴槽の熱損失
上棟時の写真を見返していたところ、浴槽下部には床・断熱材がないことに気づきました。うちの家族は浴槽を使う頻度が低くシャワーで済ますことが多いです。浴槽に湯が張っていないとなれば、ここからの熱貫流も考慮しないといけません。
カタログ上は、一条工務店の浴槽はi-スタンダード(i-cube, i-smile等)・スマートバス(i-smart等)いずれでも、6時間で1℃しか冷めないようです*4。ここから、熱貫流率を推定します。
「6時間で1℃」というのは、JIS高断熱浴槽基準の条件で評価された結果のようです。この条件は、周囲温度10℃、湯量は深さ70%でふたを閉めた状態で40℃からスタートし、何時間後に何度低下するか、というものになっています。
湯量はカタログ値で220L、浴槽の表面積を実測値からざっくり3[㎡]とします。6時間で1℃低下するので、1時間では0.167[K]の低下ですから、熱損失と、熱貫流率は以下のようになります。
- 熱損失[W] = 湯温低下0.167[K/h] ÷(3600[s/h]/4.184[J/cal]) ×(220[L]×1000[g/L]) = 42.7[W]
- 熱貫流率[W/㎡K] = 熱損失[W]÷表面積[㎡]÷温度差[K] = 42.7/3/(40-10) = 0.47[W/㎡K]
この熱貫流率をつかえば浴槽からの熱損失を計算できそうですが、1つ注意しなければならないことがあります。JISの条件でも周囲温度10℃となっていたように、床下温度は冬でも外気温度ほどは低下しません。実測データ*5でもそうなっているようです。
外気温によってどの程度左右されるか微妙なところですが、ここでは床下温度が外気温より高いため、外気温に対する熱貫流の0.6倍程度になる、と見込んでおきます。
例えば、室温23℃外気0℃なら、熱損失[W]=0.47[W/㎡K]×3[㎡]×(23-0)[K]×0.6=19.5[W]くらいとする、ということです。
各部屋の月別設定温度算出方法と結果
上記を考慮して計算するように、Pythonプログラムを修正しました。計算方法としては以下になります。
(1) Excelファイル(home_parameter.xlsx)のroom_paramシートに、室毎のパラメータを記載する
(2) 同じExcelファイルのheat_transfer_coefシートに、壁・窓・玄関ドアなどの熱貫流率を記載して保存する
(3) コマンドプロンプトからpython floor_heating_setpoint.py
を実行する
これで、各部屋の月別の床暖房設定温度目安が出力されます。
我が家のi-smileで11月~3月の床暖房設定目安を計算した例を以下に記載します。
11月
部屋 | 通常温度 | セーブ温度 |
---|---|---|
リビング | 27 | 24 |
1F廊下トイレ | 29 | 25 |
洗面室・風呂 | 29 | 26 |
洋室1 | 28 | 25 |
洋室2 | 25 | 22 |
書斎 | 24 | 23 |
寝室・2F廊下トイレ | 24 | 22 |
12月
部屋 | 通常温度 | セーブ温度 |
---|---|---|
リビング | 30 | 27 |
1F廊下トイレ | 32 | 28 |
洗面室・風呂 | 33 | 29 |
洋室1 | 32 | 28 |
洋室2 | 28 | 25 |
書斎 | 27 | 24 |
寝室・2F廊下トイレ | 26 | 23 |
1月
部屋 | 通常温度 | セーブ温度 |
---|---|---|
リビング | 31 | 28 |
1F廊下トイレ | 34 | 30 |
洗面室・風呂 | 34 | 30 |
洋室1 | 33 | 29 |
洋室2 | 29 | 26 |
書斎 | 29 | 25 |
寝室・2F廊下トイレ | 27 | 24 |
2月
部屋 | 通常温度 | セーブ温度 |
---|---|---|
リビング | 31 | 28 |
1F廊下トイレ | 33 | 29 |
洗面室・風呂 | 33 | 30 |
洋室1 | 33 | 29 |
洋室2 | 29 | 26 |
書斎 | 28 | 25 |
寝室・2F廊下トイレ | 27 | 24 |
3月
部屋 | 通常温度 | セーブ温度 |
---|---|---|
リビング | 30 | 26 |
1F廊下トイレ | 32 | 27 |
洗面室・風呂 | 32 | 28 |
洋室1 | 31 | 26 |
洋室2 | 28 | 24 |
書斎 | 27 | 23 |
寝室・2F廊下トイレ | 26 | 22 |
傾向としては、以下がありそうです。
- 玄関に続く廊下や風呂などは、床暖面積に対して、熱損失のある外壁・土間や床暖のない床の面積が大きいため、高めの設定温度にする
- 1Fに対して2F(最上階)は天井からの熱損失があるため、高めの設定にする
- ただし、内部熱負荷の高い部屋はそこまで高い設定にしなくともよい
とりあえず、これでまた運用して様子見してみようと思います。