一条工務店i-smileの省エネ性能を評価する (2) 外皮平均熱貫流率Ua値の計算

この記事の続きです.

前回はi-smileの消費エネルギー性能を示す値BEIを計算し,0.24(76%省エネ)という結果を得ました.このとき,外皮平均熱貫流Ua値は0.34[W/㎡K]であったということを示しました.今回は,このUa値の計算方法について説明したいと思います.

外皮平均熱貫流Ua値は,室内と外気の熱の出入りのしやすさの指標値で,値が小さいほど断熱性能が高いことを示します.単位を見るとわかる通り室内外温度差が1℃あったときに外皮1㎡あたりに出入りする熱が何Wあるかを示しており,住宅から外壁・窓などから外部に逃げる熱量を外皮全体で平均して算出します.
Ua値


Ua値計算は手計算で行ってもいいのですが,建築物省エネ法に基づくエネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)のHPにExcelの計算条件入力シートと計算プログラムが用意されていますので,これを用いると便利かつ基準に則った計算ができます.

計算手順としては,計算条件入力シートのExcelに仕様を入力して,マクロで出力したxmlファイルを計算プログラムにアップロードすると計算が行われる,というものです.計算条件入力シートには,壁等・窓・ドア・基礎の情報をそれぞれ入力します.
住宅・住戸の外皮性能の計算プログラム

1. 壁・天井・床の入力

これらは方位別に種類,隣接空間の種類,面積,仕様,日射有無などをExcelシートに入力していきます.以下のような感じです.
外皮性能計算条件入力シート_外壁計算条件
仕様はi-smileの標準仕様書から以下の構成としました.
  • 外壁:構造用合板12mm,充填EPS(JIS1号相当)140mm,石膏ボード12mm
    外壁はタイル材なども含まれますが,タイルと合板の間に通気層があるようなので,通気層から内側のみを外壁仕様として入力します.(図は一条工務店i-smileカタログから引用)
    i-smile_高気密高断熱構造
  • 床:構造用合板24mm,EPS(JIS1号相当)140mm,構造用合板18mm,フローリング(熱伝導率は合板と同じ)12mm
  • 天井:構造用合板9mm,EPS(JIS1号相当)235mm,石膏ボード9mm
    屋根には太陽光パネルなどがありますが,i-smileは天井断熱で天井裏の空間は断熱の外になるので,その内側のみを仕様として入力します.
なお,仕様では熱橋を考慮しないといけません.熱橋は柱や梁など断熱材を貫通する木材のことです.この部分はEPS断熱材ではなく木材として断熱性を入力しなければいけません.熱橋1本1本の計算はしていられないので,以下のHPにある面積比率法を使います.
i-smileは枠組み壁工法に該当するので,外壁は断熱と熱橋の比率を0.77:0.23,天井・床は0.87:0.13とし,熱橋部分の面積はEPSの代わりに木材があるものとして仕様を入力します.外壁だとこんな感じになります.面積[㎡]の列に断熱と熱橋の比率分の面積を記入します.
外皮性能計算条件入力シート_外壁仕様

2. 窓・ドアの入力

窓・ドアについても同様に方位別に隣接空間の種類と面積・建具・熱貫流率などの仕様を入力します.

うちのi-smileは窓をオプションで「防犯ツインLow-Eトリプル樹脂サッシ」としたので,熱貫流率を公式HP記載から引っ張ってきて0.8W/㎡Kとして入力しました.ただこの数値は開き窓の値で,引き違い窓では0.2くらい劣るようだったので1.0W/㎡Kとしています.なお,通常の「高性能樹脂サッシ」だと1.4W/㎡Kになるようです.


窓の日射熱取得率は仕様から選択することができるので,「三層複層 2 枚以上のガラス表面に Low-E 膜を使用したLow-E三層複層ガラス 日射取得型」を選択しました.

また,太陽光パネルやバルコニーの下部の窓は,日よけがあるものとして効果係数を考慮できます.日よけの効果係数は,エネルギー消費性能計算プログラムのHPと同じところにある日よけ効果係数算出ツールというツールに家の日よけと窓のサイズを入力して計算した値を使います.

玄関ドアの熱貫流率は,採用した「プロノーバ」のHPに1.20W/㎡Kという記述があったので,その値を採用しました.


3. 基礎の入力

玄関土間部分は床断熱が存在しないので,基礎として入力します.

基礎の取り扱いは計算プログラムの入力ガイドに記載がありますが,玄関等の土間床の面積および外周部の長さを入力して,外周部の線熱貫流率を入力すれば良いようです.

線熱貫流率は,エネルギー消費性能の算定方法 第三章 第三節 6.2.1を参照します.地盤面と同じ高さであれば0.99W/mKとするようです.

なお,浴室の床部分の断熱については,BEI計算プログラムのほうで入力の選択肢があるので,ここでは考慮していません.工事中の現場で確認させていただいたところ,ユニットバス下の基礎外周にも断熱材が施工されており,気密もとってありそうだったので影響は小さいかと思います.

4. 計算結果

上記を入力したら,マクロのXML出力ボタンでXMLファイルを出力し,計算プログラムにアップロードします.
すると計算結果が出力されます.前述のとおり,Ua値は0.34W/㎡Kということでした.また,冷房・暖房期の平均日射熱取得率も計算されるので,この値をBEIの計算プログラムに入力すれば良いです.外皮性能計算プログラム計算結果


なお,今回の計算結果にはハニカムシェードは考慮していません.ハニカムシェードを入れると窓の熱貫流率が0.8→0.6W/㎡Kとなるようです.これで計算するとUa値が0.34→0.32,日射熱取得率が0.3ほど低下する傾向にあり,BEIは0.24→0.23と少し結果が良くなります.ただ,ハニカムシェードは開けて使うこともありますし今後カーテンに入れ替える可能性もあるので考慮しませんでした.

Ua値0.34は,前回も述べたようにi-smileのカタログ値0.32と近い値です.しかし,今回は「防犯ツインLow-Eトリプル樹脂サッシ」をオプションで採用しましたがi-smileの標準は「高性能樹脂サッシ」なので,それより悪化しているのは気になるところです.まあカタログは最も良い条件で計算されるものなので,建物条件と違いがあるかもしれません.

次回は,蓄電池・エコキュートの昼間利用の効果について記載したいと思います.

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