「英語を子どもに教えるな」を読みました

以前,ブログで取り上げた「英語を子供に教えるな」を読んでみました.

Amazonでのレビューも☆4.3となかなかです.
 
 
著者の市川さん,教育学博士号を取得と記載されていますが,Wikipediaを見ると,ディプロマ・ミルだったようで,現在は撤回されているようですね.
一度読んだ所感をまとめます.
 
[全体を通して]
  • 論文の引用とそれを具体的に表す事例が多く,筋の通った文章で記載されており,納得感があります.米国の日本人学習塾の状況から始まり,バイリンガル達成の困難さ,早期英語教育と本当に国際人として必要とされるポイント,親の留意点がまとめられています.最後の留意点を夫婦で流し読みするだけでもだいぶ参考になりそうです.
 
  • 全体としては正しそうなのですが,引用論文が古いこと,著者の経験に基づく論説が多く,一般論,あるいは日本で英語を学ばせる場合にも適用していい事柄かどうか判断に迷うこともあります.参考文献が挙げられているのでそちらも参照したり,もう少し新しい文献をあたってみたほうがいいとは思いました.
 
[個々の知見]
  • 以前のブログ立命館大学田浦先生のおっしゃっていた,BICS(日常会話・言語能力),CALP(認知能力)に近い概念が登場します.オーストラリアの言語学者の引用で「遊び場言語(playground language)」と「教室言語(classroom language)」と言うそうですが,やはり遊び場言語の習熟で安心してしまい教室言語の習得が不十分となってしまうことを懸念されています.
    同様の概念として,「一次的ことば」と「二次的ことば」もあります.直接的な親しい人との間のコミュニケーションである一次的ことばに対して,小学3~6年生で習熟する,間接的なことを他者と共有する二次的ことばに慣れた後でないと第二言語の獲得がしにくいそうです.
    逆に言うと,二次的ことばに慣れてきた段階で第二言語の学習を始めるのはいいのかなと思いました.もちろん日本語のCALPを伸ばすことと並行することは必須だと思います.
 
  • バイリンガルとなると,他の言語で習得した抽象的な概念が母国語にも影響を及ぼすそうです.また,使わなければその言語は劣っていくため,いずれの言語も継続的に鍛え続けなければバイリンガルであることを維持できないとのこと.
    この点は自分も経験があるので納得感があります.ただ,結局の所,学習を楽しめるようにならないと継続的に鍛え続けるということはできず,他の言語での抽象的な概念などの習得につながらないと思うので,生涯学習を身に着けさせる必要があるのかと思います.ここは結構難しいです.
 
  • 著者が塾講師であることもあり「塾」という教育産業・市場に関して意見を述べています.同調圧力,評価圧力が早期の英語教育を行わせるきっかけとして働いているが,それはいくつかの思い込みから来ていること,そもそも早期から英語を学んでもバイリンガルになれるとは限らないし,英語がぺらぺらなだけでは国際社会で通用する人間にならないなど,より重要なことがあるといっています.
    これはそのとおりで,専門教育を受けて獲得した専門知識での議論が英語でできることが必要かと思います.その目的達成のためには英語教育の開始時期が早期である必要はありません.
 
  • 「親が留意すべき10のポイント」はどれも重要に感じます.英語教育という意味でいうと,「英語は一生かけて身につけるものと覚悟する」に年代別のビジョンが示されているので,これを見返しておくと特に良さそうです.
 
 
なかなかいい本を読めたと思います.また読み返したいと思える一冊です.