一条工務店に入居してから、電力量・電気料金を定期的にまとめています。
ここで気になったのは、我が家は蓄電池7kWhが1台ですが、システム的には2台まで接続できるらしく、2台にしたらどうなるのか、ということです。
一条工務店の太陽光+蓄電池システムは、引き渡し3年までなら有償で蓄電池を1台追加できるようです。追加によって
- 余らせて売電している電力の有効活用
- 停電時(特に夏冬)の自立運転の長時間化
が期待できます。
一方で、蓄電池の増設は費用対効果が悪いという話も聞きます*1。
じゃあ実際はどうなのか、我が家の電力量実績データを用いて蓄電池追加をしたときの電力量・電気料金をシミュレーションし、金銭的、電力自立のメリットを試算したいと思います。
我が家の概要は以下の通りです。
この記事の目次です。
1. 蓄電池追加時のコスト
いくつかのブログを見ていると、蓄電池の後付けは60万くらいでできる、と記載がありました。
しかしながら、最近のインフレで蓄電池と施工費も上がっているらしいです。
一条工務店の蓄電池2台目追加費用
— ゆぅ@北海道×一条グラスマ平屋 (@yuu2016fire) 2024年2月11日
新築時の2台目追加費用は税込み【788,700円】
後付けは1邸毎に見積が必要だけど、現時点の価格目安として【95~110万円】なんだそうです。
友人が本契約後に相談してくるから不必要に詳しくなる😅
こちらのツイートでは、新築時79万円、後付けは95~110万ということでした。新築時ですら過去の後付け価格より高くなってますね…
本記事では、蓄電池の追加は、キリよく、新築時80万円、後付け追加で100万かかる、と考えます。
2. 2台目蓄電池追加時の電力量シミュレーション
2.1 シミュレーション方法
蓄電池を追加したときの電力量をシミュレーションします。
まず、元となる電力消費量や買電量・売電量などのデータが必要です。これは、前回電気料金試算をしたときと同様に、一条パワーモニターアプリから1時間毎の電力量データを取得します。
次に、このデータを用いて2台目の蓄電池への充放電の計算方法を考えます。
基本は節エネモードで動作させることにします。太陽光発電の余剰電力は現状売電していますが、それを2台目蓄電池に充電し、逆に買電していたら、その分は放電で減らすようにすれば、蓄電池がある場合の電力量を計算できるはずです。
しかし、充放電には損失があるので、その分を考慮しなければなりませんし、当然ながら蓄電池残量によっても動作を変えないといけません。ロジックをもう少し具体化すると以下になります。
- 当日の発電開始時間を1日のスタートとする
- 売電電力量があり、2台目蓄電池残量が100%でない場合、売電量は充電に回す
- 売電量分を充電に回し、蓄電池残量は充電量×効率[%]分増やす
- 蓄電池の充電可能量が売電量より少ない場合はその分だけ充電し残りは売電する
- 買電電力量があり、2台目蓄電池残量が0%でない場合、買電量を放電で賄う
- 買電量を放電で賄い、蓄電池残量は買電量÷効率[%]分減らす
- 蓄電池残量が買電量より少ない場合は、蓄電池残量分だけ買電量を減らす
- 上記を24時間分計算する
- 翌日になったら、蓄電池残量を引き継いで次の日の計算をする
これを計算するPythonスクリプトを作成しました。ちなみに、効率や蓄電池容量は以下としました。
- 効率は充電90%、放電90%、システムトータルで80%
- 追加する蓄電池容量は7kWh
- 蓄電池残量の自然放電や経年変化は考慮しない
def calc_add_2nd_battery(_df): """追加した2台目の蓄電池残量と充放電・売買電量の計算を行う _df: 電力量実績値 """ df = _df.copy() # 新しい列を追加 df['充電(2台目)'] = 0.0 df['放電(2台目)'] = 0.0 df['蓄電池残量(2台目)'] = 0.0 # 発電開始/終了を特定 periods = get_day_periods(df) # 各期間で計算 carry_over_battery_level = 0.0 for day in range(len(periods)-1): # 当日発電開始から、翌日発電開始の1時間前までのdfを作る start = periods[day][0] # その日の最初の時間 start_next = periods[day+1][0] # 翌日の最初の時間 day_df = df[start:start_next] # その日の最初~翌日の最初までを抽出する end = day_df.iloc[-2].name # その日の最後の時間 day_df = df[start:end] # その日の最初~最後までを改めて抽出する # バッテリ残量の計算 battery_level = carry_over_battery_level # 1日の1時間毎に計算 for i in range(len(day_df)): row = day_df.iloc[i] print(row.name) # 売電電力量がある場合 if row['売電'] > 0.01: if battery_level < 7.0: charge_amount = min(row['売電'], (7.0 - battery_level)/0.9) # 充電量は売電量かバッテリ残量÷効率の小さいほう df.at[row.name, '充電(2台目)'] = charge_amount df.at[row.name, '売電'] -= charge_amount battery_level += charge_amount * 0.9 # バッテリーレベルは充電量×効率(0.9) # 買電電力量がある場合 elif row['買電'] > 0.01: if battery_level > 0: discharge_amount = min(row['買電'] / 0.9, battery_level) # 放電量は買電量÷効率かバッテリ残量の小さいほう df.at[row.name, '放電(2台目)'] = discharge_amount * 0.9 # 放電量×効率だけ放電して、買電分に充てる df.at[row.name, '買電'] -= discharge_amount * 0.9 battery_level -= discharge_amount # 蓄電池残量を更新 df.at[row.name, '蓄電池残量(2台目)'] = battery_level # 翌日発電量が0以上になる時間に残っていた残蓄電池残量は繰り越し if battery_level > 0: carry_over_battery_level = df.at[end, '蓄電池残量(2台目)'] return df
2.2 蓄電池追加時の電力量のシミュレーション結果
このスクリプトに1年分(2023/11/1~2024/10/31)のデータを投入して計算させました。
データ例として、春、夏、冬の3シーズンのデータを図示します*2。
まず春(4/20から4日間)の電力量と蓄電池残量推移です。電力量は、消費、発電と、買電と売電です。買電・売電はBefore(蓄電池1台)、After(蓄電池2台)の2つ載せています。
特に見ていただきたいのは、オレンジ色の発電、買電のbefore(緑色)とAfter(赤色)、それからピンク色の2台目蓄電池残量です。
1日目、2日目は発電もあり2台目蓄電池を満充電できつつ、夜間にBeforeでは発生していた買電もAfterではほぼなくすことができています。1日目と2日目の間で2台目蓄電池残量が0になっておらず、残量を翌日に繰り越すことができていることから、冷暖房が無い中間期に晴れていればほぼ電力自立できる*3ことがわかります。逆に言うと蓄電池残量を余らせてしまっており、少しもったいない状況です。
一方、3~4日目は発電が少ない日だったようで、こう言った日は蓄電池2台あっても当然ながら買電が発生します。
こちらは夏(8/14から4日間)、冬(2/9から4日間)のデータになります。
夏のデータも1-2日目の晴れの日は買電はほぼなくせていて、翌日発電が始まる前に多少の買電が発生する程度です。しかし、3日目は太陽光が少なく、春同様午後から買電が大きく出ています。
冬では床暖房の影響か消費レベルが大きいうえ発電時間帯が短いので、太陽光で消費を賄える時間が少なく、夜間には必ず買電が発生しています。蓄電池2台でも不足するレベルです。
この原因の1つに、我が家では、夜間に洗濯→衣類乾燥機を使う生活をしている、という点があります。共働きのためどうしても夜間に洗わざるを得ず、手干しも面倒なので仕方のないことですが、夜間に必ず3kWhくらい消費するので、蓄電池の減りが早いです。逆に、蓄電池2台入れても余らせることが少ないということは、金銭的にはメリットの出やすい電力量パターンであると言えます。
一方、夜間の電力消費が少ない家庭では、冬は蓄電池2台で買電なしかどうかは微妙なところですが、他の季節では多少余らせることができ、太陽光があれば停電時でもいつもと同じ生活ができそうです。ただ、太陽光が無いと買電・電力不足はどうしても発生するでしょう。
2.3 蓄電池追加時の買電量の変化
シミュレーション結果をもとに、毎月の買電量を計算したところ、以下になりました。
年月 | 買電[kWh] | 蓄電池2台目追加時の買電[kWh] |
---|---|---|
2023-11 | 225 | 122 |
2023-12 | 317 | 231 |
2024-01 | 370 | 255 |
2024-02 | 355 | 226 |
2024-03 | 320 | 173 |
2024-04 | 247 | 101 |
2024-05 | 180 | 53 |
2024-06 | 206 | 74 |
2024-07 | 285 | 103 |
2024-08 | 275 | 82 |
2024-09 | 257 | 99 |
2024-10 | 288 | 175 |
春は蓄電池残量を余らせてしまうくらいでしたが、とはいえ買電が0にできるかというとそんなことはなく、曇天・雨天時の影響で毎月ある程度は買電が発生してしまうようです。
3. 蓄電池追加時の電気料金の計算
3.1 電気料金の計算方法
蓄電池追加時の電気料金を計算してみます。ここで、電気料金はとりあえず現状のLooopでんきの電気料金単価を用います。Looopでんきの電気料金計算方法は以下の記事で紹介した方法を用います。
なお、計算条件は以下です。
- 1年分の電力データ(2023/11~2024/10)を3年分に拡張して2021/11~2024/10を計算
- スポット市場単価は、東京エリアの2021-2024のデータを用いる
- エリア損失率、消費税率、託送費・サービス料、再エネ賦課金は2021-2024の実績値を用いる
- 容量拠出金相当額は今後低下が見込めないので、過去も現行の2.6円/kWhと同じとする*4
- 3年分の年度毎の平均値を計算する
こうして計算した1年分の平均電気料金に、売電料金を足します。うちは2023年から売電を始めたので、10年間は17円/kWhで固定ですが、10年後の2032年でFIT期間が終了します。FIT期間終了後は、8円/kWhで売電できるものとします*5。
蓄電池1台の場合と2台にした場合それぞれについて、平均電気料金とFIT期間の売電料金の合計、電気料金と卒FIT期間の売電料金の合計を計算し、15年間分の差を求めてみます。
また、今回はさらに、電気料金が年率1%~6%で増加する場合それぞれで計算してみます。
3.2 電気料金の計算結果
上記の条件で電気料金を計算しました。まずは、毎年の電気料金単価が変わらない場合、以下のようになりました。
売電 | 蓄電池1台 | 蓄電池2台 | 料金の差 |
---|---|---|---|
FIT期間 | 70,324 | 28,346 | 41,978 |
卒FIT期間 | 108,844 | 53,050 | 55,793 |
2025年(3年目)に蓄電池を追加導入し、パワコンの寿命(保証期間=15年目)まで運用したとすると、その料金差は 614,790円になります。 蓄電池追加コストは全然まかなえません。
同じように、電気料金が年率1~6%増加した場合に、3年目に蓄電池追加した場合とそうでない場合の差額=蓄電池追加メリットを計算します。 さらに、新築時から蓄電池2台だった場合の差額も計算してみます。
計算結果は以下のようになりました。
電気料金増の年率 | 3年目に蓄電池追加した場合のメリット | 新築時に蓄電池2台にした場合のメリット |
---|---|---|
0% | 614,790 | 687,897 |
1% | 688,778 | 762,567 |
2% | 769,549 | 844,018 |
3% | 857,737 | 932,887 |
4% | 954,039 | 1,029,869 |
5% | 1,059,210 | 1,135,722 |
6% | 1,174,078 | 1,251,270 |
3年目に蓄電池追加するとなると、電気料金が年率4%超で上がるようなシナリオなら、元は取れる、という結果でした。 わたしは電気料金は今後年率3.5~4%くらいで増加するだろうと見込んでいるので*6、この想定だと元を取るにはやや足らず、コストメリットは見いだせませんでした。
一方、新築時に蓄電池2台にしておくと、うちのような使い方の場合は、電気料金が2%増という現実的な条件であっても元が取れそうだという結果でした。
新築時なら住宅ローンで安価な利率で付けられますので、使い方によると思いますが、2台にしておくのは悪くなさそうです。
3.3 タダ電へ切り替えた場合の電気料金
ここまでは電力会社を変更しない想定で考えていましたが、蓄電池2台にして買電量が少なくなると、タダ電などの電力会社に切り替えることで電気料金の削減が期待できそうです。
タダ電は71kWhまでは毎月電気料金が無料で、それ以降は70円/kWhと高額な単価で電気料金がかかるという少し特殊な料金体系の新電力です。単価は高額ですが、買電量が低ければ割安になるという特徴があります。
そこで、Looopでんきとタダ電を比較をしてみました。(ここでは年率で電気料金が上昇することはとりあえず考えません。)
結果としては、以下の通り年間の電気料金差は2,000円程度と微々たる差だったため、切り替える必要はないかなと思いました。
- Looopでんき:年間60,900円
- タダ電:年間58,800円
もちろん、夜間の電力使用が少ない場合は買電がもっと抑えられるので、タダ電への切り替えメリットも出てくる可能性はあります。 ただ、その場合は蓄電池メリットも少なくなることが想定されますし、今後電気料金が上がってくるとタダ電も改悪される可能性があるので、そこにどれだけ乗っかれるかにもよると思います。
まとめ
蓄電池の追加によって、どの程度買電量・電気代が削減できるかを、我が家の電力量実績データを用いてシミュレーションしてみました。
結果として、我が家の電力使用パターンにおいては、蓄電池追加により買電を大幅に減らすことができ災害時の有用性は向上することがわかりましたが、後付けによる追加ではコストメリットはほぼ見いだせない、ということがわかりました。
現状でも蓄電池は1台ついていますし、節電すれば十分災害対策になると考えているので、後付けはしなくていいかな、と思いました。
一方、同時に行ったシミュレーションだと、新築時に蓄電池2台にしておくことはコストメリットも出そうだ、という結果になりました。 新築時に増やしておかなかったのが悔やまれますが、当時から家族構成も家電構成も変わって電力使用パターンも想定できておらず、普通に余らすだろうと考えていたので、仕方ないかなと思います。
本記事がこれから新築・蓄電池追加を考えている方の参考になれば幸いです。
*3:実際は急峻な電力変動にすべて対応はできず多少の買電が発生
*4:Looopでんきの値上げ・料金改定情報まとめ!高くなった理由を解説 | エネチェンジ
*5:東京エリアだと電力会社によってはもう少し高値で買い取りしてもらえる例もあるが、将来的に売電料金は下がる可能性が高く、現状の最低ライン程度を見込んでおく